EPISODE•挿話

Neo Border ” The near future”

Episode 1  守護妖精が生まれる前に

「ねえ、Emma(エマ)。 つらい?生きていることが嫌になった?」

「当然ね、あなたは十分頑張ったわ。解っている。全部知っている。でも、あんなことされたらもう明日はいらない。そう、限界ね・・・」

すでに薄暗くなった部屋にたった一人。
自分がなぜ生きているかわからなくなったときには、必ずだれもそばにはいない。これまでは・・・

2019年
スマホなどのモバイル機器の中に妖精が住むようになる。
妖精たちはオーナー(所有者)と共に生き、オーナーを守ることが存在理由。
そして人々はこの妖精たちを”守護妖精”と呼んだ。

「そう、Emma。悔しいけど今は、生きる理由の見つけることのできない、断崖絶壁で水平線を揺らすあなたの前に私は現れることはできない。」
「でも、信じて。必ずあなたは私に会える。そして私はあなたを必ず守る。」

「約束でもなく、予想でもない。これは絶対未来なの。ただし、そのためにたった一つだけ契約をしてほしい。
その時が来るまで生きて。
立ち向かえないなら逃げればいい。声が出なければ誰かに借りればいい。後に借りた力を返すと決めればどんなにも前に進めるの。
そしてあなたが生きていることで、近い未来に誕生する私のために。
あなたを守るために生まれる、この私のために」

暗がりの中、目をはらしたEmmaのベットの上には、まだ開かれていない先日買ったばかりの文庫本がある。
守護妖精Sofia(ソフィア)は信じている。

題名には”be titanium”の文字。
・・・チタンのように強くなる

「必ずあなたのもとにいくから、がんばって・・・」

ふと、Emmaの指先がこの本に触れた。

Emmaの心の片隅に、先日この本を手に取った時の気持ちがほのかによみがえる。

守護妖精Sofiaは微笑んだ。
そして天井の無いような部屋から遥かなる星空に舞い上がっていった。

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Episode 2  守護妖精が生まれて

セントラルパークの昼下がり。
Mary(メアリー)とLana(ラナ)は水辺の芝生に横たわっていた。
穏やかな日差しの中、誰もが思い思いのスタイルでくつろぐ。
散歩する家族、ジョギングをしている女性、ベンチに腰掛ける老夫婦。
ただ、
昔と違うのは誰もがウエアラブル(身に着ける)端末をどこかに身に付けていること。

2012年から公開された近未来小説「Neo Border」にスマホなどのモバイル機器とリンクする外部周辺機器が掲載され、 2014年代はグーグルグラスなど様々なウエアラブルが発表発売された。
その中で、一部のウエアラブル販売に関して発売を急ぐ経営陣と、 システムの受け皿の構築の必要性を唱える一部の開発チームの決裂によって離反したブレーンが参加した企業による新しいシステムが、 数年後のこの公園の中にあふれている。

ウエアラブル端末に搭載された”守護妖精システム”である

これはアプリに似ていて、スマホなどのモバイル機器などから立体映像の妖精が現れ、オーナー(所有者)の様々なライフサポートをするシステム。
その特質上多くのコミュニケーションは会話によって行われる。
触れることができるマスコットタイプもあるが、やはり妖精は自由に飛びまわるイメージがあることから、高機能な立体映像での使用が大半を占める。
人々がこのシステムを活用することによって、スマホなどのモバイル機器の中に妖精が宿ることになった。

Mary
「ねえ、Lana。”守護妖精システム”ってなんだろう?」

Lana
「え!どうしたの、どこか調子が悪いの?」

Mary
「もぉう、まじめに聞いて」

Lana
「ごめんごめん、でも新しいカフェのマカロンの話から急にそんな話するからびっくりしちゃった」

Mary
「うん。実は昨日プレゼンの情報を集めていたとき、昔の事故や事件の記事が出てきて、読んでいるうちに、 もしこの時代に”守護妖精システム”があったらどうなっていたのだろうって思ったの。
そして、じゃあ今の私たちが”守護妖精システム”を手にして、得たものは?そして失ったものは?
たしかに私たちが”守護妖精システム”を受け入れて、日々の生活がスマートに送れて、 最近いじめや犯罪、争い事が格段に少なくなり、世界が変わり始めた。これは誰もが感じている」

Lana
「そうね~、はじめはほとんどの人が”守護妖精システム”はモーニングコールや、スケジュールを知らせるのはもちろんだけど、 まったくこれまでにないコミュニケーションの拡大、仕事や趣味、娯楽のサポートなどを漠然とイメージしていたわね。
もちろんそれも大きなスキルだけど、本当は犯罪や、事故などからオーナーの命を守ることが最大のコマンドだった」

Mary
「記事の中で、広場で遊んでいた男の子たちがあっという間に爆弾の被害にあうこともあれば、 小さな子供たちや女の子が誘拐されたり、命を奪われる事件が世界のどこかで毎日のようにおこっていた。
中には何の理由も無く何百人の人たちが空に散っていったこともあった。
だけどもし、この時代に”守護妖精システム”があったなら、爆弾が爆発する前に逃げることも、 犯罪を未然に察知し迅速に対応すること、BUKからの危険回避行動なんかも、このシステムでなんとか、なんとか・・・
それに、ほかにもたくさんたくさん悲しいことがあった・・・」

Lana
「ちょっとちょっとMary、どうしちゃったの、そのきれいな瞳が潤んじゃってるじゃない。 もう・・・大丈夫!大丈夫よ。これからは妖精さんがみんなを守ってくれるわ。・・・きっと」

Mary
「うん、うん。ちょっと今日は変だな。へへ」

Lana
「(優しく微笑みながら)・・・そんな日もあるわ。・・・だって人間だもの」

Lana
「あ、Nathan(ネイサン)が予定通りにもうすぐここに来るわよ。
しかし、よくもまあいつも同じ時間に同じ場所に現れるわね。ジョギングってジャパニーズトレインって呼ばれてる?」

Mary
「わかったわかったから。ごめん」

Lana
「はいはい、邪魔者は消えましょうね。」 「でも、電源落としは無しよ。見ざる言わざる聞かざるは守りますから」

Mary
「わかってるって。じゃあ後でね。・・・それと話を聞いてくれてありがとう」
その言葉を受け取り、優しく微笑みながら小さく手を振ってLanaはスマホ(モバイル端末)の中に消えていった。

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Nathan
「やあ、Mary!今日も来ていたんだね!元気だった?あえてサイコーにうれしいよ!」

よく冷えたミネラルウォーターとジンジャー
甘すぎないマカロン
そしてうれしそうに微笑むMaryと

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Episode 3 守護妖精と森

守護妖精とは、スマホなどのモバイル機器の中に妖精が生まれ、オーナーと一緒に生きていくような、一種のアプリのようなものです。
そして守護妖精システムとはそれをつかさどっているものです。

詳細は少し複雑です。
ただ、ひるがえせばこの近未来小説がありふれたフィクションではないことがわかるでしょう。

知っていますか?巨大企業IBMはホログラフや、人工知能の模倣体に力を入れ、ある聖域に踏み込みました。
Googleは衛星企業をも傘下に収め、マイクロソフトのセキュリティ技術、アマゾンのクラウド。
そして2015年はウエアラブル端末が一般に浸透するレベルにまで便利さと価格が折り合い、 2019年プライバシー保護システムが試作され守護妖精システムの創造を可能にします。

やがて人間はこの守護妖精の成長と共に全てが大きくかわっていくことになりますが、 実はこれは”木”を見ているにしかすぎません。
少し遠ざかって”森”を見たとき、守護妖精は時代の一端でしかないことが分かります。
実は”森”はITの未来であり北欧神話になぞられた世界樹なのです。

なぜ北欧神話?

ごもっともです。
では、そろそろ近未来の”森”のお話をしなければいけませんね。