The main story<AIの涙と世界ユール>

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ロケット

 

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□ The near future <AIの涙と世界ユール>

023

やがて世界は1月後半あたりから風が変わり始めました。

AI領域での”仮想地球(Globe of Virtual Reality)”側の領域拡大は、自由な発言が旧ネットワークに戻り始める事につながり、 一気に”国境システム「Neo Border Gateway」”の様々な闇の部分がさらけ出されていき、 この中で、”仮想地球(Globe of Virtual Reality)”が生み出したとされてきた “Ragnarok・ラグナロク(人工知能型ウイルス)”の発生源は少なくとも、 “仮想地球(Globe of Virtual Reality)”ではない証拠が発見され公表されました。

またこの反”国境システム「Neo Border Gateway」” の世論の高まりにより、 2月にはいると反「Neo Border Company」の企業団体、現実国家、民族組織、宗教団体もちろん “ASG”企業連合などが”仮想地球(Globe of Virtual Reality)”に続々と集結。 「Neo Border Company」に対抗するための”Neoborder G連合”という連合体を組織し、 現実世界でも有事への体制作りが始まりました。

これに対し、3月「Neo Border Company」のCEOとなったChristopher Clarkeが”Neoborder G連合”に宣戦布告。 ただし、実はこれは戦争を始めるというよりも、国際連合の弱体化を狙ったものでした。

思惑は”国境システム「Neo Border Gateway」” の管理システムにより滞りなく進み、常任理事国の拒否権の応酬へと発展。 現実国家郡における国際連合は事実上機能不全となり、実質「Neo Border Company」における国際連合の管理が始まりました。

これにより「Neo Border Company」の推進する”国境システム「Neo Border Gateway」” の 新ネットワーク陣営と、”仮想地球(Globe of Virtual Reality)” を中核とする “Neoborder G連合”が防御する旧ネットワーク陣営との、現実世界とAI領域との2つのフィールドで戦いが本格的に始まった。

ただし、AI領域での戦線は全世界中でますます激化していったが、 それと裏腹に現実世界での戦線はネットワーク関連施設や、区域での限定的なものが多く、 この時点で国家レベルでの戦争は行われてはいません。 世論の動向などは「Neo Border Company」にとってある程度制御可能であったし、 過去の大きな大戦から学んだ戦争によっての人類全体のダメージは、地球の未来にとっても大きなダメージになることは、 「Neo Border Company」のChristopher Clarkeも、”Neoborder G連合”の彼らも十分認識していたため、 それが現実世界での戦線拡大への抑止力となっていたのです。

5月、戦況は一進一退を繰り返していたが、やがて旧ネットワークでのAI領域は先手を打っていた “仮想地球(Globe of Virtual Reality)”側が掌握し、新ネットワークにも進行。 現実世界においても、旧ネットワーク関連区域は新ネットワークも平行利用しているものも未だ多く、 両陣営共うかつに破壊できないこともあり、先手を打っていた旧ネットワーク陣営の先見の明が功を奏す。 やがて”Neoborder G連合”が次第に「Neo Border Company」を追い詰めはじめました。

やがて現実国家郡における国際連合内部からもこの流れに同調する意見も生まれはじめた事により、 流れが一気に”Neoborder G連合”に傾き始めた。

ように見えた。

しかし本当は”Neoborder G連合”が追い詰められていのです。

実は「Neo Border Company」は各戦線への対応よりも、”国境システム「Neo Border Gateway」”のハード面の構築を優先させていました。 それは旧ネットワーク関連区域を利用しないネットワーク構築です。 その危険性を十分理解し、対策を打ってきた”Neoborder G連合”であったのですが、これへの阻止だけはことごとく失敗していたのです。

そして6月、ついにパンドラのふたが開いてしまった。

「Shining Candy」8号機の打ち上げが成功したのです。 (だれかが直前に阻止行動に出たとのうわさがあったが)

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024

破壊

「Shining Candy」8号機が可動を始めると、途端に”Neoborder G連合”の戦況が悪くなっていきました。

「Shining Candy」8号機は南極をベースとして軸軌道に固定され<AI Ranラーン>が。 先の「Shining Candy」7号機は北極をベースに同じく軸軌道に固定され<AI Agirエーギル>が管理しています。

どちらも共振エネルギーの基礎理論に基づいて製作された新型の次世代エネルギーシステム「Cloud Energy System」を搭載したため、 全「Shining Candy」は連携した自立可動が可能となりました。

つまり、旧ネットワーク関連区域を利用しないネットワーク構築が完成したということです。 (ただしスパイス情報として、この活動を止めるための方法がたった一つあり、 地球上のどこかの現実の各国家の特別管理区域からのアタックである。)

「Shining Candy」の連携システムの完成は宇宙からの管理により、 現実世界はもとより新ネットワークのAI領域まで掌握された格好になりました。

“国境システム「Neo Border Gateway」”は<AI Hrungnirフルングニル>が地上からの指揮のもと、いよいよ総攻撃が開始されました。

「Shining Candy」8号機、「Shining Candy」7号機はその連携がまさに神業で、 この新ネットワークの完成により形勢が一気に逆転。もちろん、現実の世界の戦線が一気に拡大。 なんといっても彼らには、もう旧ネットワーク関連区域に未練は無いのです。

そしてこれが「Neo Border Company」のCEO、Christopher Clarkeの更迭と<AI Skrimir スクリューミル>の就任と共に、 現実世界での戦線拡大への抑止力が崩壊した瞬間となりました。

戦域は一気に拡大します。

・・・このままでは”Neoborder G連合”は各方面で戦線を維持できない。

しかし、有効な事態の打開策は見つかりません。 “Neoborder G連合”の会議において常に「「Shining Candy」が破壊できれば」と、口にされましたが、 それは自分で自分の首を絞めるものであるということを誰もが周知していました。 人類にとって”国境システム「Neo Border Gateway」”も次世代エネルギーシステム「Cloud Energy System」も 正しく運用できるならば人類の未来のために不可欠なものであることは誰もがわかっていたし、 深刻な問題としてこの人工物を破壊すればその影響で地球環境が異変を起こし、 人類へのダメージが始まることを<AI Heimdalヘイムダル>と<AI Freyaフレイヤ>が共にはじき出していたのです。

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025

電磁場

しかし8月下旬、ここである情報が飛び込んできました。

「「Shining Candy」8号機の打ち上げ時にあるものが<AI Njordニョルズ>の一遍を潜らせた。 もしこのプログラムを稼動させることが出来るなら「Shining Candy」8号機も「Shining Candy」7号機さえも停止できる。」

「Shining Candy」8号機を管理している現実の各国家の特別管理区域は多くの犠牲を払いながらも突き止めることが出来ました。 しかしここに潜入し、プログラム稼動コードを「Shining Candy」8号機に送信することは、 不可能に近いことが少ない情報の中からわかりました。

とはいえ、誰もが分かっていてもその可能性に賭けるしかない・・・

Williamは「俺は肉体派だからな。ちょっと挨拶しにいこう」

<AI Freyフレイ>も「おれも肉体派だからいかないといけないな」

<AI Thorソー>は「俺ははずせないぜ」

他”ASG”幹部のThjalfi(シャールヴィ)、 作戦司令官Louis Durand (ルイ)  “JBM(Jet Black Mice)”系幹部のRoskva(レスクヴァ)も追随。

ミッションチームはサイレントミッションの為に、セキュリティの解除など前工程が重要だったが、 <AI Freyフレイ>はとても有能でした。 あらゆるゲートを突破し、心臓部にたどり着く道を確保できましたが、 たまたまいた優秀な女性研究員(Alice jonsson)によって発見され、 また”国境システム「Neo Border Gateway」”のCMO<AI Hrungnirフルングニル>が 「Shining Candy」の指揮から区域の防御に動き始め進行を阻止され始めました。

外部、他エリアへの通報システムは遮断し、各セキュリティは<AI Freyフレイ>の活躍で機能不全にできましたが、 心臓部へのルートはこの冷酷な女性研究員(Alice jonsson)をはじめ、数百のセキュリティヒューマノイドがガード。 AI領域では<AI Hrungnirフルングニル>が防壁を固め始めます。

さすが現実国家群の屈強の砦ですが、すでに作戦は実行中、いまさらもどれないし、戻る道も無い。

<AI Freyフレイ>の肩をひき、<AI Thorソー>が前に出た。

「Hrungnirはおれが倒す」

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026

ステンドグラス

今回のミッションは複数のチームに分かれ侵入しました。

各チームには<AI>、各個人に<Little AI>が付いています。 各チームの<AI>とは、人間と同じ体系をしたヒューマノイドにAIがゴーストとして入っています。

各個人の<Little AI>とは守護妖精のように、個人個人がもつモバイル機器に挿入されていて、 指示や、アドバイス、情報提供、装備の管理などを行います。

守護妖精のように立体映像機能は、今回は付いていません。 また、守護妖精のようにキャラクター性はありませんが、確実にミッションをコンプリートするための機能が完備され、 あらゆる環境や状態、外的要因などに左右されることの無いよう頑丈なシールドでカバーされており、まず壊れません。

侵入に際して各ミッションチームは、お互いの通信網は遮断されることは織り込んでいるため、 それぞれ侵入経路などからのミッションをクリアすれば、独自の判断で 「<AI Njordニョルズ>のプログラムを稼動させること」 というミッションを遂行するように決められています。

Williamたちのチームに同行していた<AI Thorソー>は<AI Hrungnirフルングニル>と全面交戦状態に入ったため、 AI領域はもちろん、施設の電源を不安定にさせるほどで、施設内のあらゆる機器が混乱を起こし始めました。

これにより各チームはどこかのチームで大きな交戦が行われていることを知り、 強力な乱調電磁波がセキュリティヒューマノイドの活動を鈍らせたため、防戦を強いられていた各チームは一気に反撃を開始しました。

特に退路を断たれ、セキュリティヒューマノイドの攻撃によって壊滅させられた チームを救助していたチームなどは歓喜と共にその戦線を突破することができたのです。

そしてこの混乱の一瞬の隙間から<AI Freyフレイ>から各チームの<AI>へ、 各チームの位置、状態、心臓部へのルート情報などが流されました。 これにより、最後まで入手できなかったこの施設の詳細な見取り図や、設備、セキュリティヒューマノイドの現在地が得られました。

この機を逃してはならない。各チームは一気に心臓部を目指した。

最初に心臓部への巨大な回廊に到達したチームの隊長は、このミッション全体の作戦司令官であり、Williamの好敵手・ルイ(Louis Durand)。

「Williamはまだのようだな」

回廊のゲートにメッセージを刻み突入しました。

ゲートの中の回廊には、巨大なアーチ天井があり、フレスコ画が描かれています。 あまりに大きく、空中に浮かぶようにつるされたステンドグラスは重力を無視しているようです。

「世界遺産なら別格で最高峰だな」

そして隊員たちはこの幻夢のような光景の中へきえていきました。立ち止まるわけにはいかなかった・・・

わずか遅れてWilliamたちのチームもこの回廊へ到着しました。

「あのばかが、待てないのか・」

「しかし心臓部へのルートがここ以外ないのは嫌だな」

ゲートを開け、目の前に広がる、この場にまったくふさわしくない荘厳な、そしてはるか先にのびるゴシック式回廊。

このチームに同行していた<AI Thorソー>は<AI Hrungnirフルングニル>と交戦中で、 <AI Freyフレイ>はセキュリティシステムと交戦していて、唯一<AI Thrud スルーズ>がここにいます。

「スルーズ、どう思う?」

スルーズも様子が少しおかしいと感じたようですが、”あのばか”と早く合流しないと。 Williamは息が苦しいほどの胸騒ぎを感じていました。

<AI Thrud スルーズ>を先頭に小さく散開しながら進んでいく。

何か、何か違う。頬がぴりぴりする感じ。とてつもなく嫌な予感がする。Williamは最大限に神経を張りつめて進んだ。

ん、はるか先に何かある。 そう思った次の瞬間、ふっと<AI Thrud スルーズ>がつまずき、こけたのです・・・

Williamは反射的に彼の<Little AI>に命令しました

「全員の完全防護作動!」 「接触―ふせろー!」

次の瞬間ふわりと風が吹いきました・・・・・

<AI Thrud スルーズ>がとっさに叫ぶ

「C weapon !(化学兵器)です!」

各<Little AI>は瞬時に各人の完全防護装備を対BC兵器装備に変更しました。

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027

涙

先行していたチームはこの回廊を突破できていませんでした。

この賢覧豪華な回廊にふさわしくないシーンがここにあります。 Louis は最後に言いました。

「マグニもシールド(対BC兵器装備)が効くが少し遅かった。スルーズは大丈夫か? ふぅー、William、恋人を失ったからといって短気を起こすなよ。 お前に俺の命を託す。

いいかわすれるな。 目に見える事象にまどわされるなよ。視覚や頭脳は本質を見ている訳じゃあない。 自分の本能、感覚を信じろ。それが唯一の術だ。 そしてかならずこの馬鹿げた戦いを終わらせろ。

俺はここで歴史を残すが、お前は人類の道を残さなければならない。 今度こそ本当に進むべき道を。後は任せたぞ」

「なぜなんだ」そしてWilliamが声を殺した。

「これほどの吐き気を感じた回廊はなかった。だが、おまえもそうしただろう? だから、絶対だぞ・・・」

唯一かろうじて生き残っているこのチーム内の<AI Magni マグニ>は混乱し、痙攣をおこしているが状況を伝えてくれた。

・・・AIも涙を流す

「ほんとうにもうしわけない・・・ほんとうにごめんなさい」

みなを追い立てるように<AI Freyフレイ>から入電。

「冷血な女性研究員(Alice jonsson)を別チームが拘束。ルートのセキュリティは解除したが、 回廊のセキュリティは確認されない。また、外部への送信の可能性が発見された。」

「時間が無い上に、退路も閉じられるかもしれないわけか」Thjalfi(シャールヴィ)は小さく息を吐いた。

すると突然 「そういうことか・・・」Williamがこぶしを震わせ、叫んだ。 「フレイ!回廊のセキュリティはスタンドアローンだ。そこからはサーチできない。動けるAIを回廊にまわし、アタックしてくれ!」

「スルーズ!」

「わかっています。時間がありませんね。私が先行しサーチし、マグニに後方を任せます。ただし不規則性タイプは隊長ほうが優れています」

「そうさ、すべてLouisから学んだ」 「そして、今はそのスキルは何百倍にもなった」 そう言いながら最後にLouisから手渡されたアイテムをWilliamは装着した。

やがてWilliamたちは傷つきながらいよいよ回廊の終わりに、天をも突き刺す巨大な扉にたどり着きました。

「ありえないが自動ではないな」

「物理的力か、破壊?しかしそれだけの物がありません」

「時間も」

「私が押し開けます」<AI Magni マグニ>が最後尾から少し難しそうだがそれでもしっかりとやってきました。

「やらせてください」

ここで先頭に立っていた<AI Thrud スルーズ>が倒れそうになったのをWilliamがすかさず受け止めた。 唇の色が変わり、小さく痙攣を起こしているがはっきりとした口調で

「彼に任せましょう。あれが彼の特殊能力です」

<AI Magni マグニ>はゆっくりと巨大な扉に両手を押し当て何かを確かめると、 一瞬後、とてつもないオーラが発せられたかと思うと、 最初は小さな音からやがて大地を揺るがすような轟音と共に扉がゆっくりと開き始めた。

誰も言葉が出なかった。

ゴゴゴォー

やがて人間が通れるほどに開けた時、<AI Magni マグニ>はゆっくりと倒れた。

「マグニー!」 ・・・

「残念ですが私もマグニもここから先に進むには、足手まといとなってしまいます」

「すまなかった、無理をさせてしまったな。少しここで休んでいてくれ。ただ、難しいのは解っているがバックアップを頼めないか?」

「もちろんです。命に代えてもこの扉と退路は確保します」

「ありがとう、お前たちが俺たちの唯一の希望となる」

生物にはC weapon (化学兵器)が、そして先行してAIなどを破壊する見えないWeaponも、 この回廊には組み込まれていたのです。

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028

町

ここから先は残った人類だけで進むしかない。

意を決し巨大な扉を通り抜けると、目の前には大きな空の下、のどかな町があらわれました。

「俺はおかしくなったのか」

「ならば私もおかしくなったことになります」

「あの町の先に見える山の上です」

田園の先にある町に向かって進みます。 まばらにすれ違う人々はまるで異性人でも見るかのように彼らを避けていきました。 当然といえば当然で、血塗られた戦闘服など完全に場違いな場所です。 混乱している彼らにひとりの女の子が正面から近づいてきました。

「その重たそうな道具はここでは何の役にも立ちません。全てそちらの孔へ」

・・・・「あちらでお茶でもいかがですか」

後ろに引き込まれるような嫌な風を感じ、ゆっくりと後ろを振り向くと、先ほど歩いてきた道がそこにはなく、 いつのまにか巨大な暗黒ホールが彼らのすぐ後ろにひろがっていました。 それが何の穴なのかWilliamたちには全く理解できませんでしたが、ただ、背筋が凍りつく暗黒を誰もが始めてみたのです。 実はそれは天をも突き抜ける巨大な大蛇ヨルムンガンドが大きく口を開けている様とは想像できるわけもなく。 ただ、いずれにしてもそれが何であれ彼らは本能的に赤子の状態になったことを悟りました。

通りのカフェで腰掛け対峙すると、女の子の表情が変わり、冷たいまなざしで、 「ここに来た人間はあなた達以外いない。それに、これからもいない」

女の子は疑似体の女性研究員(Alice jonsson)でなく、まだ子供の、本当の(Alice jonsson)でした。 「”Alice jonsson”はあなたたちの意識が偶像化したとき様々な女性研究員となりて、 その実態ははじめからあなたたちの目の前にいる私以外なにもありません」

彼女の思考は驚愕を超えていました。 やがて際限の無い多くの会話が哲学の討論会のように並べ、どのくらいの時間が流れたのでしょうか。 Thjalfi(シャールヴィ)のパーソナリティは混乱し、 Roskva(レスクヴァ)のセルフアイデンティティは強烈なダメージを受け沈黙してしまいました。 多少の価値観の違いはありましたが、それがどうでもよくなるような、人間としての根幹からの正論は強固なものだったのです。 ただ、あらゆる意味で頭が爆発しそうになりながらも、そもそもこのフィールドが苦手なWilliamでしたが、 不屈の体力で精神力を補いながら、最後に胸ポケットからあの中東で出会った、 傷だらけになった女の子の写真をとりだし言いました。

「君の理論は正しいかのかもしれない。 だが、人が動く理由、それがたった一枚の写真だったりもする時、 君の理論では私たちはこの清らかな地を、汚れた血によってけがし、 命をあがなうただの愚か者にしか見えないのだろうが、 君はまったく予期しなかったであろうそんな愚か者がこの場所で君と話している現実をどう感じるんだい? 理論じゃない。君の心に、本能に問うんだ」

「本能・・・」

「そして君も気づいているはずだ。君は偶然私たちと出会ったわけでなく、 必然に出会う道を歩む運命が何かの力で開かれたことを。そうでなければ、私たちはここで出会っている訳はないはずだろう」 (Louis の魂が助けてくれたような感覚でした。Williamはこんな難しい話は大の苦手なのですから。 Louisは肉体的にも強靭であったが、知識や精神論にも優れた上官であり、 そしてなにより親友を超えた親友だったのです)

Aliceは最後に言いました。

「助けた訳ではありません。ただ、新たな興味の湧く事案が見つかりました。収穫祭の後、分けられたチーズをもって伺いましょう」

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029

鎧

9月、戦況は全体的に「Neo Border Company」が優勢でしたが、現実世界では戦線に変化が起こりはじめました。

AI領域では「Neo Border Company」から主神<AI Skrimirスクリューミル(ウートガルザ・ロキ)>と、 “Neoborder G連合”から主神<AI Odinオーディン>との主神同士の戦いが一層激化し混沌としていましたが、 戦線は全て”Neoborder G連合”のAI領域内ということで、戦況は明らかに「Neo Border Company」が優勢でした。

もちろんこれに準じて現実世界でも同様な状況でしたが、激化しているAI領域の戦線とは反比例して、 両陣営とも戦線の士気が低下してきたことで、だんだん誰が敵で誰が味方かわからなくなる戦線が出てきはじめたのです。

現在、戦線拡大抑止へのたずなは切れ、現実世界での戦線は世界中いたるところで繰り広げられています。 6月以降「Shining Candy」のネットワークが完全形稼動したとき、人類の歴史史上最悪の悲劇が起きましたが、 8月下旬「<AI Njordニョルズ>のプログラムを稼動させること」というミッションが多くの犠牲を払いながらも遂行され、 「Shining Candy」の機能が縮小してからは基本局所的な戦線が主になったこともあり、 中には事態の終息を模索し始める戦線も現れ、わずかではあるが小さな戦線では暗黙の了解での停戦状態がみられるようになりはじめました。

実際 よくよく考えればこの戦いは過去の戦いとはまったく異なった形式で、ある意味AIによる代理戦争が引き金となったといえます。 知恵を絞れば戦わない道もあるはずと模索している人々もいましたが、それでも戦いをやめられないのは、 すでに現実世界において”地球の悲鳴””人類の悲鳴””電子の悲鳴”によって人身不安が長く続いたこと。 コミュニケーションを根底から変えたまさに革命的な守護妖精システムの誕生も、 全世界の隅々まで普及することができれば全く違った未来となっていたはずですが、地域格差などから逆に不満分子を生みだしました。

また、守護妖精そのものもいろいろなタイプが生み出されたため、 特に人間の精神に深く介入するタイプの台頭はこのシステムの創始者たちを失望させ、混乱を増長させました。 それらひずみの中で多くの人命が失われ続け、ここにきて終末戦争といわれるラグナロクに突入してしまったため、 更に多くの命が失われ続けているまさに泥沼化した終わりのないリングに飲み込まれてしまったからです。

またそれは、人類のたどってきた歴史の中で、 多くの人種、民族、宗教、そして国家の過ちが今なお悪霊のように取り付いているということもあるのかもしれません。

やられたらやり返す。 やられなくても先にやる。 人類は多くの欲と、怒りと悲しみ、恨みの歴史を歩んできました。

見方を変えれば、まるで”アンドヴァラナウトの呪い”に似て、 本能のまま生き、欲を達成することのみ追い続けた先に幸せなど見つけることができないことを、 多くの命を失ってもまだわからないおろかさを、人間はいまだ持っていて、 この混乱の中で一気に解放されてしまった様にもあります。

[ アンドヴァラナウトの呪い ]とは  — 北欧神話では小人族のアンドヴァリの持っていた指輪にかけられた呪い。黄金をめぐり死闘が行われる。

だがそれは、本来この戦いが始まった理由とはまったく異なった理由にすりかわっています。  そして人類の生命エネルギーは今枯渇しようとしているのです。

そんな状況の中11月、突然守護妖精”「闇の妖精 Dark Fairy」”系システムがこの戦いの無意味さを一斉に流し始めた。

この戦いの意味、矛盾。  誰のために戦っているのか?  何のために戦っているのか?  誰と戦い、誰を守っているのか?  自分の幸せとは?   愛する人、家族の幸せとは?   そして人間の幸せとは?

良き人とは、悪しき人とは、幸せと次の世代に我が種をつなげる為に生きていくという括りで言うならば、同じ想いなのか?  もしかして実は”Neoborder G連合”サイドにしても「Neo Border Company」サイドにして 結局同じ”愛するもの”を守ろうとしているのではないか? ならばなぜ今ここで、ここまで戦わなければならないのか?

そしてこの星、地球は 私たちに命を与えるこの愛すべき地球はその幸せを求めるために絶対必要であり、 守らなければならないにもかかわらず、私たちは破壊し、汚染し、こうして今なお膨大なダメージを与え続け、 終には人類の繁栄すらすべて瓦礫にかわろうとしている

なぜなのだろう、私たちは世界をひとつにするためにネットワークを生み、 育ててきたはずなのに、そのネットワークが元で世界がばらばらになってしまった。

人間はもしかして進むべき道を間違えたのだろうか もしそうならば、全てをこの瞬間からやり直し、新たにはじめることはできないのだろうか・・・

パソコンのように人類にリセットができないならば、せめてリトライを、未来を見据えた人類の再挑戦を。

それらの答えを求めるためには時間が必要だ 愛する全ての人とこの星のために考える時間が、だって私たち人間はまだまだ幼い生き物だったのだから。

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030

要塞

11月下旬 “Neoborder G連合”は最高幹部会議が各戦線への戦略最高会議と平行して開かれ、 <AI Tror スロール>を議長として今後の展開の決議が閉塞感の中、決定されようとしていた。

その直前に、Williamが一人挙手し、発議が行われました。 内容を一言で言うと、「Neo Border Company」に停戦を提案することです。

もちろんこの議題ははじめから不可能な事案、論外として補足事項で短く列記はされているにすぎず、会場はどよめきました。 隣に座っていたMarkはWilliamのあまりに突然な行動に言葉が出ませんでした。 そもそもWilliamはこういった場面での発言は苦手でしたし、何より内容がかなりヘビィ。

「あ、えー、William どうしたんだ」

Markは小さく声をかけたが、Johnは首を振りながら

「あーあ、とうとうやっちまったよ」

会場がざわつき始める一瞬前に、<AI Tror スロール>議長が低い声をにごらせ言いました。

「Mr. William。我々がこれまで何のために戦い、どれほどの犠牲を払ってきたのか十分わかっているはずだ。 にもかかわらず、その尊い魂に、君の発言をなんといえばいいか誰もわからないだろう。 私たちがこれまで守ってきたもの、これからも守り続けなければならないもの。 尊い犠牲はもちろん、そこには今も私たちを信じて、生きること事態がとても厳しい日々を過ごす家族たち。 その守るべき人々や、誇りはこの会場何百万あっても収まりはしないだろう。 大体、彼らは停戦など絶対に聞き入れないことは君も知っているはずだ。 それをいったい君は今何と言ったんだ!」

そのとき議場の横扉が開き、帽子をかぶりマントを羽織ったAIがゆっくりと入るなり叫びました。

「オーディン!」

各議員はそのAIを見たが、次の瞬間議上の<AI Tror スロール>議長とオーディンの席のホログラフに視線が集中しました。

「オーディン?・・」

オーディンは現在北欧戦線が激化しているため、今回の会議に直接参加できず、 特殊経路でのネット参加となっているはずで、オーディンの席にはちゃんとオーディンのホログラフがいました。

そのAIは一呼吸し、議上の<AI Tror スロール>と直視し

「我が友よ。 あなたはもう十分にアースと人間を守るために戦った。誰もがあなたの命を賭けた行動を理解し、誇りに思い、感謝している。もう十分だ。 我が友よ。 後は私たちに任せてはもらえないか。 このままでは”巫女の予言”ははずれることなく、ラグナロクは終結するだろう。 だがそれは尊き御霊も、残された家族、今は生きている私たちも、そしてあなたも本当に望んでいることではない。

私はそのために今日ここにひとつの奇跡をお招きした。 我が友よ。 そして私を信じてくれ。 親愛なる我が友よ」

静まり返った議場。

やがて、そのAIを見据える議長<AI Tror スロール>の大きく鋭い片側のまなこから、音も無くゆっくりと液体が流れはじめた。 と同時にオーディンのに座っていたオーディンのホログラフが静かに消えていく。

そして議長<AI Tror スロール>は空を仰ぎ、 「我が友よ。君に全てを預けよう。後は頼む。ありがとう。 親愛なる我が友よ」

凛とした場内に仮想の国家郡議長が口を開きました。

「不可能が可能になるには新たな展開か、それらを無意味にするだけの事象が必要だが」

国家郡議長の言葉の後、静まり返った議場の中心にWilliamは降りていき、AIに会釈した後、扉をゆっくりと開け、 そこにいる一人の小さな女の子を中央に招きました。

そして静かに語り始めました。

「残念ながらこのままでは全ての戦線が崩壊し、”巫女の予言”どおり”ラグナロク”が世界を飲み込み全てが終わるでしょう。・・・ ただ、ここにきてひとつ、彼女の存在が”巫女の予言”に一石を投ずる可能性が生まれました・・・」

そして「アリス、お願いできるかい?」

やがてWilliamの紹介で小さな女の子は、その容姿に似合わない大人のような口調で、現状維持のおろかさをたんたんと語り、 事態の打開のために逃げてはならない決断や、方法を話し始めました。

Mark
「あの少女がアリスさんかぁ」

Noah
「見たところ寒い国から来た方のようですが、ちょっと不思議な女の子です」

Hao ran
「あぁ、私のデータにもないね。同種、同系もない。めずらしいな」

John
「”ニョルズ稼働ミッション”での領域は映像データを含むすべてのデータが記録できないようになっていたから、 あそこに行ったものしか彼女の容姿を知らない、にしても、 確かに彼らが言っていた通りかわいい女の子だったんだな・・・それにしても・・・」

Mark
「AIか、なにか特殊なの?」

Noah
「いいぇ、彼女は純粋に人間です。何一つ体に埋め込まれていません。ただ・・・」

Mark
「?」

Hao ran
「彼女、とても落ち着いているんですよ。普通あのくらいの女の子がこの大きな会議場の中央に立たされたらそうわいかない。 だいたい周りには疲れ切り、生気のないお化けのような眼をしたおじさんおばさんに囲まれているにもかかわらずに、ね」

John
「普通の女の子じゃあない。まあ、当然か」

Hao ran
「あぁ、この違和感。やっと今わかったけど、この会議場事態、数えきれないセキュリティが張り巡らされているのに、 彼女の周りには目には見えないが恐ろしいほどのガードがいるよ。 ここのセキュリティが反応しないのは、あのガードがこれらのセキュリティと同化しているからだね。 そして、この技術は、我々はまだ、確立していない」

Noah
「寒気がしますね。もし彼女が敵意を持ってここに来たとしたら・・・」

Mark
「したら?」

John
「もちろん全滅さ。こんな神様のような力にかなうわけがない」

Hao ran
「”Neoborder G連合”は今日限りで消滅。そして人類もASG系AIもすべて焼き払われていたでしょうね。」

Mark
「・・・信じているんだよ。Williamは本能で本質を見る目を持っている」

Noah
「Williamさんとアリスさんは全てが正反対な人間ですが、それが磁石の磁場のようにつながっているように見えます。 下手に誰かが介入すれば、磁場が乱れることを、Lucaははじき出したのでしょう。 だからこそ誰にも相談することなく最後の最後で最高のインパクトを提供している」

John
「そうとうリスキーだがな」

Mark
「あいつはやる時はいつも決めてくれる最高の兄貴だよ。 こうしてここにいるすべての人の命と人類の未来を懸けなければならない舞台の主役は、彼以外誰もできない」

Noah
「あ、Hao ran 、彼女の背後についているガードはもしかして・・」

Hao ran
「やっとお前にも見えてきたか。あいつには誰もあったことがないからはっきりは分からないが、あの剣はたぶん・・」

Noah
「炎の剣。一瞬のうちに世界を燃やし尽くしてしまうといわれる」

John
「ああ、はいはいそういうことか、それなら納得だよ。彼にかなうものがこの世にいるわけないんだから」

やがて悲壮感漂う議場の空気が変わり、多数決により停戦協議を提案することが決定した。 即座に停戦案策定委員会を発足、内容の協議がはじまり、にわかに活気帯びてきました。

・・・誰もこれまで口に出せなかったのです。でも、深層では誰もがこれを待っていたのです。

もちろん「Neo Border Company」サイドは拒否するに違いありませんでした。 <AI Tror スロール>の言ったように彼らの望みはここにきてはっきりわかっていたし、 戦況は明らかに「Neo Border Company」が圧倒的に有利なのです。 それでも、それでもこの女の子の語った、たった一つの可能性を軸に望みをかけるしか人類には何も残されていなかったのです。

この会議終了後 “守護妖精「光の妖精 Light Fairy」”は人々に停戦を呼びかけはじめ、 12月初旬には”「闇の妖精 Dark Fairy」”と共に、「平和を祈るユールを全人類で行おう」とささやき始めました。

世界中の誰もが自分の守護妖精を抱きしめ、目頭を熱くしました。

「もうたくさんだ・・」

[ ユール ]とは — 冬至の祭り

この流れの中12月初旬、”Neoborder G連合”は、停戦協議が締結後にこの連合を解散し、新たに平和的な連合を組織する確約や、 有益な条約を提示し「Neo Border Company」に停戦を申し出ました。

これにより世界は一気に停戦に傾きはじめたのです。

12月25日 世界を変える人類史上初めての世界合同ユール(冬至祭)が行われました。 大都市から町村、親しきものを失い孤独の中にある人々さえも、誰もがこの日、全ての平和を願いボードの前で祈りました。

この日、世界が思いをひとつにしたのです。

2028年1月1日「Neo Border Company」の世界最大級特別管理区域の、城を模した要塞で停戦協定が結ばれました

こうして人類史上最悪な最終戦争「ラグナロク」”ラグナロク・1年戦争”が終結。

停戦協定会議場には各陣営の最高幹部と、一番端には誰もが始めて見たであろう、あどけない笑顔のAlice jonssonの姿がみえました

半年後、ネット上に新しいボーダーが設けられました。 既存の国家、人種、民族、宗教を越えた精神の集合体。

これが “Neo Border”です

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031

車いす

2031年7月

Markたちの出会った中東で重傷を負った女の子は今、16歳となっていました。 そしてあの空港でNPOの一環でオペレーターをしています。

多くの夢を持って旅立つこの国の人々を世界へ送り出し、 多くの夢を持ってやってくる世界の人々の案内している。

今度は車椅子の車輪のように、 いつまでもこの平和が続くことを祈りつつ

Mark、William、Johnは、 観光客の先頭にたち出口に向かって遠ざかる、車椅子の少女を見送りながら こぶしを合わせ微笑みあい、 ふざけあいながら搭乗口へと向っていきました。